ガシャリという鈍い音をたてながら、十人近い数の男達がぐるりと柚葉たちを取り囲んだ。男達は各自手に斧を持っており、全身を灰色のローブで覆っているために表情等は窺い知れない。単純に円陣の組み方だけを見ても、相当に訓練をつんでいる事を見て取れた。

「フン……野党かなにかはしらんが、俺たちを狙うとはいい度胸だな」

「ゆずぅ……相手の実力も確かめずにそういう態度はよくないと思うんだけどなぁ……」

 多勢に現れた男達を尻目に、余裕の態度をとる柚葉に、飛鳥は半ば呆れ気味に呟いた。

「まぁ……襲われてるんだし、撃退しなきゃいけないな」

「あぁ」

 飛鳥は、小さくため息をついてから右手に持った杖を握り直した。

「支援をかけるよ。ブレッシング!サフラギウム!」

 そんな飛鳥に、柚葉は口早に支援魔法をかけ、男達に向かって一歩前に出た。

「んじゃ〜時間かせいでくれ。一発で片付けるからさ」

「お前の態度の方こそ余裕だと思うぞ……飛鳥」

 柚葉は、その言葉を合図に男達に向かって駆け出した。数に自信のある男達は、詠唱を開始した飛鳥のほうを無視して自分たちに向かってきた柚葉のほうに全員で向かってきた。一人ずつ確殺をしていくつもりなのだろうが、それこそ柚葉の思い通りである。それぞれが余裕のような態度で斧を振りかざす男達を受け流すような動きでかわし、右手に握り締めた杖で敵を突き飛ばす。十人近い数の男達が、まるでダンスでも踊らされているかのようにあしらわれていく。

「いくぜっ!大いなる嵐よ、わが前に立ちはだかりし愚かなる者達を打ち滅ぼせ!ストームガスト!」

 飛鳥の言葉と共に、柚葉を中心に嵐が巻き起こり、周囲の男達は倒れるか、もしくは氷柱と化していった。

 

 

 

「こいつら――」

「ん?」

 倒れた野盗たちを見ながら、柚葉は驚きの声を上げた。

「どしたどした?」

 それに対して飛鳥の方は、不思議そうな声で尋ねる。だが、柚葉のいつもとは違う様子に不思議に思って柚葉の手にもたれた男を見やった。そして――

「ぇ……この肌って――」

 柚葉の手元にあったのは、フードがはがれて露わになった男達の肌であった。それはとてもきれいな白い肌……ではなく、まるで草のような緑色をしていた。

「こいつら……オークなのか?」

 その緑色の肌を見て、飛鳥はたまらず呟いた。

「けど……どうしてこんなところにオークが」

 もともとこの辺りのフィールドにはオークは生息しておらず、誰かが古木の枝をつかって呼び出したにしては、同じ種族がこうも多く一点にあつまることなどありえないことだった。だが――

「いや――、問題は何故ここにオークがという事よりも、こいつらの動きこそおかしいと思う……」

 飛鳥がぶつける疑問に対して、柚葉は核心となるような疑問を冷静に答える。だが、言葉自体は冷静さを装っているものの、やはり口調はいつもの落ち着きを失っているように感じた。

「こいつらは……円陣を組んで俺達を襲った。何者かがこいつらを鍛え、統率していたとしか思えない……」

 たしかに……と飛鳥も柚葉の意見に頷いた。

「さっきの戦闘方法は……あきらかに騎士団や私設ギルドのメンバーのように完全に統率された動きだった……」

 なにかが……この者たちの後ろには何かが確かにいるのだ……

「つっても――、相手の考えも何も分かんないぜ?大体、オレたちを故意に狙ったのか、たまたまここにいたオレ達を狙ったのかすらもわかんないのにさ」

 落ち着きをなくした柚葉に、飛鳥は冷ややかに答えた。妙に冷静な口調で淡々と述べる飛鳥を、柚葉は少し不思議に思った。再会してから今まで、ここまで冷静に物事を考えているところを見たことが無かったからだ。

「そう…だな、すまない――」

「ん。オレ達が今するべきことってのは、わけわかんないこの状況で頭抱えてることじゃないぜ」

 

 飛鳥の言葉に、少し落ち着きを取り戻す事のできた柚葉は、赤々と燃える焚き火の火を見ながら――

「もしも……あの黒白の堕天使が動いてるとしたら……」

「ん?」

 突然不思議な名前を口にした柚葉に、飛鳥は不思議そうな顔で見つめ返した。

「黒白の堕天使……そう呼ばれたプリーストのことだ」

「ふむ……そのプリーストが動いてたらなんかあるのか?」

「あぁ……クラークという名前のプリーストでな、クルセイダーのルビーとペアで行動をしている。そいつは、モンスターを従える不思議な力をもっていた……。今回のオークのように、集団で人を襲わすことなど、そいつらからすれば非常に簡単な行為だろう」
 柚葉の発言に、飛鳥は背中が冷たくなるような感じがした。
「そいつらは、教会ではなく、死神部隊と呼ばれる私設ギルドに所属していたはずだ」
 ギルド……このルーンミッドガルドにいる冒険者達のほとんどは、何かの組織に所属をしていることが多い。前までの柚葉のが所属していたような、教会のようにその職業の人間が集まる組織。そして、今柚葉の告げた私設ギルドと呼ばれる組織。私設ギルドとは、エンペリウムと呼ばれる特殊な石を媒体に作られる組織で、エンペリウムを使ったギルドの創造主がギルドマスターと呼ばれる。
「死神部隊…オレも聞いたことがあるな」
 柚葉の言葉に、少し考えてから飛鳥が答えた。
「もしかしたらそいつらが――」
 何かを言おうとして、柚葉は口をつぐんだ。
「なんだ……今日はずいぶんと来訪者の多い日だな」
 柚葉は、あきれたような口調で言いながら、森の奥を見つめて――



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