「少し……休ましてもらえるか?」

 それまで休まずに喋り続けていた柚葉が、飛鳥にむかってポツリと呟いた。空はすでに紫色に染まっており、夜の訪れを二人に伝えた。

「あ……あぁ、わかった。そういや……かれこれ一時間以上喋りっぱなしだもんな。さすがに疲れるか」

「あぁ……それにテロで魔法も多く使った、さすがにこれ以上休みなしでは無理だ」

 そう言ってから柚葉は、立ち上がって背伸びをした。それから、まっすぐと空を見つめる。今にも泣き出してしまいそうなほどに、柚葉が飛鳥には小さく見えた……

「あの……さ、ゆず?」

「なんだ――?」

「お前……いく宛てとかあるのかよ」

 不意に、飛鳥が尋ねた。柚葉は、少し考え込むような顔をしてから、

「宛てはないな――今日俺は破門された身だ、行く場所なんてどこもないさ……」

 その声は、先ほどまでとは違い、どこか寂しさを含んでるように飛鳥には思えた。

「あのさ……俺さ、一つの目的のために旅をしてるんだ。どうしても会わなきゃいけない人に会って……その人に勝つために……」

「ほぅ……」

 飛鳥は、少し戸惑ったような表情をしてから、すぐにまっすぐと柚葉を見つめ、真剣な表情で言った……

「俺と一緒に行かないか?その旅に……。二人が一次職だったころのように、また一緒に旅をしないか?」

「ぇ……?」

 柚葉は、いきなり何を言いだすんだといわんばかりの顔で飛鳥の事を見た。

「無理強いをする気はないけどさ……いやじゃないなら行かないか?」

「まて……いきなり何を言いだすんだ」

 正直、何を言っているのかが分からなかった。自分は人を殺して教会を追放された人間なのだ――。そんな自分と一緒に旅をするなど、普通に考えればありえないことだった……

「俺は……人を殺して教会を追放されたんだぞ?」

「だから?」

「ぇ……」

「ゆずはゆずだろ?違うのか?」

 一瞬戸惑いながらも聞き返した柚葉に、飛鳥は微笑みながら言った。

「いやなのか?」

「いやじゃ……ないが」

「なら行こうぜ」

 微笑をその顔に浮かべながら、飛鳥は応える――

「それが……運命に従うってことなのかもしれないな」

「ぁ?」

「ふふ……いいだろう、行こうじゃないか」

 柚葉は、口元に微笑みを浮かべながら呟いた。そして

「だが一つだけ条件がある」

「条件?」

 

「つまらなかったら許さないからな――」

 

 まっすぐと飛鳥を見つめ、柚葉ははっきりと言った。この先にまつ自分の旅に進むための覚悟を表すように――

「つまらなかったら……か」

「なんだ、自信がないのか?」

「ばーか、そんなことなー世界中の人間全員がはげになることよりありえないことだぜ」

そう言って、飛鳥は満面の笑みを浮かべた。

「なんだそれは……」

「それくらいありえねぇことだってことだよ」

「ふ……、お前はかわらないな」

 笑った……二人で……

 雪音が死んで以来……

 笑うことの出来なかった自分と別れを告げるかのように……

 声をあげて笑った……

「まったく……」

「んー?」

「ひさしぶりに……笑った気がするな――」

 

どこかから……柚葉の耳に声が聞こえた――

それは、柚葉にしか聞こえることのない声――

 

「さぁ……物語を始めましょう……終わる事のない無限の名の物語を――」

 

 

 

「君に探してもらいたい少女がいるのだよ」

「それが依頼か?」

「あぁ……非常に探すのが困難な相手でね――。だが、君ならば見つけられるかもしれん」

 クラークは、璃緒に依頼内容を告げた。それに対して璃緒の方は乗り気ではないのか、何度もその内容に対して聞き返している。

「探してもらいたい少女は――君のお友達である柚葉がらみだと言ってもいやかな」

「なに――?」

「君に探してもらいたい少女の名は雪乃。アコライトの少女であり、雪音の妹だ」

 璃緒の眉が、クラークのセリフを聞いてピクリと動いたのをクラークの横にいた女性、ルビーは見逃さなかった。

「聞いた事あるんだね、その表情は引き受けてもらえるってことかな?」

そう言ってルビーはクスクスと笑った。

「奴は今回の件については無関係だが――雪乃を追うことはすなわち柚葉とのかかわりになる可能性もあるということだ」

 

 ふわりと風が吹き、璃緒の長い髪がなびいた。

「面白そうじゃないか――、うけてやるよその仕事」

 璃緒の口元には、わずかな微笑みが浮かんでいた。



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