「……」

「……」

「……なんでこうなってるんだ?」

 隣で黙り込んでいる飛鳥に、耐え切れなくなった柚葉が愚痴にも似た言葉をかける。

 柚葉達が今いるここは、魔法都市ゲフェン。多くの魔術師達が集まる場所で、町の中心に聳え立つ塔ゲフェンタワーや、魔術師になるための試験を行われる魔法学校、ブラックスミスへの試験をおこなわれるブラックスミスギルドなどが存在する。また、ゲフェンタワーはウィザードへの試験を執り行う魔法ギルドもあり、ルーンミッドガルドの魔術師達にとってこの町は、もうひとつの故郷といえる町でもある。

 また、この町は遥かなる昔栄えたとされる古代文明、ゲフェニアの封印された土地の上に作られた町でもあり、ゲフェンタワーの地下には今もなお数多くの魔物が巣くっている。

 そんななか、柚葉達三人はワープポータルによってアルデバランからこの町についてすぐに三人組の男女と再会をした。

「……レイナ」

「なに?」

「これはどういうことか説明してもらいたいんだが?」

 柚葉の目線の先には、銀色の服を着た少女と、同じく銀色の鎧を纏った少年、そして薄い布のような衣装を羽織った少女の姿がある。銀色の少女……レイナは、柚葉の問いに対してとぼけたような表情で見つめ返す。

「ん?なにが?」

 その口から出た言葉は、本当に柚葉の質問がわからないといった感じだった。

「あのな……本当にわからないと言いたいのか?」

「うん、だって私なにかした?」

「……ほぉ」

 なおも問いかける柚葉に、きょとんとした表情で返すレイナに、柚葉は胸に多少の怒りを覚え始めた。

「ならな……」

「うん?」

「なら、この俺達を拘束してる矢はなんだっ!」

 柚葉の言葉の通り、柚葉達三人はレイナに放たれた矢によって壁に押し付けられている。力ずくではがそうとすればはずせるのだろうが、それでは服が無事ではすまないだろう……

「あぁ、それのこと?」

「それのこと、じゃない!」

 柚葉が珍しく声を荒げている。その状況にケラケラと笑いながら、レイナは横にいる少年と少女に話しかけた。

「ほんとにかわってないね、みんな。ねぇリュウヤ、シィーナ?」

「あぁ……そうだな」

「うんうん」

 その言葉に対し、リュウヤのほうは口元に小さな微笑を浮かべながら頷き、シィーナもまた満面の笑みを浮かべながら相槌をうった。

「……」

 それに対し、完全に無視をされている今の状況に、柚葉は再び黙り込んでしまった。

「とりあえず……」

 まったく変化の見られない現状に、それまではうつむきだまっていた飛鳥が口を開いた。

「このままじゃ何もならないだろう?とりあえず、これを解いてもらえないか?」

 冷静な口調を保ちながらも、飛鳥の言葉にはどことなくトゲトゲしい感じが込められていた。

 それから、飛鳥は先ほどからピクリとも動かない雪乃の方を見た。

「雪乃?」

「……」

「おーい?どうした?」

「……スー」

 一瞬、何が起こったのかさっぱりわからなかった。ただ、たしかに飛鳥の耳には雪乃の口から漏れる息の音が聞こえた。それは――

「……雪乃……寝てる」

 小さな寝息だった――

 

 

 

「しかし、まさか立ったまま眠ってるなんてなぁ……」

 あのあと、レイナにそのことを話し、なんとか拘束から解放された一行はすぐに宿屋へと向かった。そしてベットに雪乃を寝かせながら飛鳥はポツリと呟いた。

「しかたがないんじゃないか?」

 なんとも呆れた表情で雪乃を見つめている飛鳥に、今度は柚葉のほうが呟いた。

「俺達と出会ってからだけでも、アルデバランへの道のりを休むまもなく歩き通しで進み、夜は野宿。さらにアルデバランにたどり着いてからも満足に休息をとることなくバタバタとこっちにきたんだからな。疲れが出ちゃったんだろう」

「あぁ……それもそうだよな。オレとかは野宿なれてるけど……雪乃なんか慣れてないだろうしなぁ」

 そう言ってから柚葉は、イスにかけてあった毛布をそっと雪乃にかぶせた。その様子を微笑みながら見つめていた飛鳥が、やさしく雪乃の髪をなでながら「ほんとにかわいい寝顔だな」などと呟いた。すると――

「ん……ゆずぅ……」

 突然自分の名を呼ばれ、柚葉は雪乃の方に振り返った。が、雪乃は目が覚めたわけではなく、単なる寝言のようだった。

「ぉ、雪乃の夢にゆずが登場か?」

 などと、いつもどうりのおちゃらけな口調で飛鳥が笑いながら言う。その言葉に、柚葉のほうは多少顔を赤くしながら「何の夢を見てるんだ」と呟いた。それを見て飛鳥の方は、まるで子供の照れ隠しみたいだなぁなどと一人で考えていた。

 

「ところで――」

 柚葉はそれまでは黙っていたレイナ達の方に振り返り、真剣な表情で喋りかけた。

「一体俺達に何の用だ?」

「なぁに?その子にはやさしい微笑みを浮かべて接するくせに、私たちには睨みつけるわけ?」

「……そんなことはこの際どうでもいい。用もないのに俺達を引き止めたりはしないよな?」

 多少厳しい口調で問いかける柚葉に、レイナの方は一瞬困ったような表情をしてから再びニコリと笑いながら柚葉のことを見つめた。それに対して柚葉の方は、なにがなんだかわからないといった表情で見つめ返した。

 

「ゆず――貴方、人を殺して教会を追放されたらしいわね」

「……あぁ」

 多少の間をおいてから、レイナは柚葉に対して問いかける。それに対して柚葉の方は、まるで気持ちのこもっていないような声で返した。

「しかも、殺した相手……アサシンらしいわね」

「……あぁ」

「対人においては全ての職業の中で最強と言っておかしくないアサシンを?」

 レイナの問いかけに、柚葉はコクリと頷いた。本来アサシンは、暗殺者としての行為を己の専属的な職業としている。ゆえに、アサシン達はこと対人においては他の職業とは比べ物にならないほどの実力を持っている。逆に柚葉のようなプリーストは、聖職者であり、本来戦闘をする職業ではない。他のメンバーの支援をしながら、戦闘の補助に回る職業なのだ。そのプリーストがアサシンとの戦いに勝利し、さらにはその相手を死に至らしめたという事実は、普通に考えて「はい、そうですか」と納得できるような話ではなかった。

「……ふむ。じゃぁ、腕は落ちてないってことかな?」

「……どういういみだ?」

「アサシンを殺せるほどの腕を持ったプリースト。ねぇゆず、ちょっと付き合ってよ。化け物退治にさ

 クスクスと口元に笑みを浮かべながら話すレイナに、柚葉は顔をしかめた――



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