1話 はじまりの歌――

6.the orld Detective Union

 

「ブレイド!?」

  突然目の前に現れた来訪者に、私たちは驚きを隠せないでいた。

「誰かの目の前でも抱き合うとは……相変わらずラブラブだな」

  そう言われて私たちはようやく落ち着きを取り戻した。そうなると今度は当然抱き合っている自分達が恥ずかしくなり、大慌てで離れる。

「まぁ……お前達二人を見て男同士と思うやつはいないんだろうけどな」

「うるさい!なんなんだよ!」

「何を怒ってるんだ、豆?二人の愛の営みを邪魔されたのが許せないか?」

「豆っていうなっ!」

 気付くと私は、涙目になって反論していた――

 その理由はわかっているんだ……

 でも――認めちゃいけない、認めちゃいけないんだ――

 

 

 

「で……なんで家までついてくるわけ?」

「用事があるからに決まってるだろ?」

「家にまで用があるわけ?」

「別に場所はどこでもいいが?」

 学校でブレイドと出会った後、私たちは誰が言い出すともなく私の家に向かった。そこで、機嫌を悪くしてしまった私が苦情を言い、それを軽く流すようにブレイドが返した。実際、もう周囲は暗くなっており、あの場ではまともに会話ができないということは私にも見て取れたが、頭では理解をしていても、行動が伴わないでいた。

「なんだ――俺がいてはいけないことでもあるのか?」

「ないわよっ、そんなこと!」

 機嫌が悪いせいか、私は口調がどんどん悪くなっている。実際今にも相手に飛び掛りそうな状態だ。それを宗介がなんとかなだめようとする。そんな状態が続きながら、私たちは家の中に入った。

 そのまま宗介とブレイドは私の部屋に向かい、私は飲み物の用意をしにキッチンへと向かった。お湯を沸かそうとナベにお水をいれ、火にかける。その間に食器棚から紅茶のティーパックとカップをとり、冷蔵庫からミルクをとりだす。しばらくするとお湯が沸いたらしくナベからコトコトという音がしはじめた。それを丁寧にカップに注ぎ、ティーカップをいれる。キッチンに紅茶のいい香りが広がり、私は幸せな気分になった。そうなると、先ほど怒っていた自分が急に恥ずかしくなる。短気だったなと少し自己嫌悪してから、紅茶の入ったカップとミルクをお盆にのせて自室に向かった。

 自室の近くまで来ると、ブレイドと宗介との会話が聞こえてきた。何を話してるのか少し気になったが、盗み聞きするのも良くないと思い、軽く扉をノックしてから部屋に入った。

「紅茶もってきたよ」

「ありがとう、瑞希」

「サンキュ」

 二人にそれぞれカップを手渡し、私もその場に座った。

「さて……っと、そろそろいいな」

「ん?」

「用件を言おうと思ってな。まず始めに、コレを見てくれ。」

 そう言ってブレイドは、私に一枚の紙を手渡した。そこには――

「コレ……ひょっとして……」

「俺たちWDUのトップである人物――フェイスからの指令書だ」

 手渡された紙には、たしかにフェイスと書かれたサインがあった。だが、それよりも注目すべきはその内容。

「WDUメンバー、ランクBカカオに現在捜査中の事件の捜査中止を命令する……」

「と、いうことだ」

「コレ……どういうことさ」

「みたまんまだろう」

 もしもコレが本当ならば、現在捜査をしているこの事件から私に手を引けとフェイスが言ってきているということだ。

「WDUのトップ、フェイス様直々の命令だ。聞かないつもりなら――資格剥奪は覚悟しておけ」

「そんな……」

「わかるだろう?お前だってWDUの人間だ。あの人の一言で、どんな優秀な探偵であれ資格を剥奪することは可能だ」

 WDU――the World detective unionは、私が所属しているチームのことだ。凶悪犯罪の増加に伴い、世界中の探偵の中でも選りすぐりの実力者を集め、数々の特権をあたえた組織。それに入隊するには様々な試験を突破し、世界各国から集められた代表に認められなくてはならない。

 また、WDU所属探偵は上からS、A、B、C、D、E、Fという7つの階級にランク分けをされている。ランクによって受けられる特権は異なり、特に上の二つ、SとAのランクの探偵には、それ以下の探偵とは比べ物にならないほどの大きな特権がついてくる。ただし、ランクSはWDTの中でも上位8名にのみ冠することが許されており、実際には通常の探偵がいけるランクはAが最高となっている。WDT所属者には、そのランクを相手に証明できるように、そのランクの英字をかたどったアクセサリーを持たされる。私が昼間に警備員のおじさんに見せたBの英字の入ったアクセサリーがそれだ。

 さらに、WDT所属探偵にはそれぞれにコードネームがつけられる。私は“カカオ”、目の前にいる男性が“ブレイド”といった感じだ。

「豆……お前は俺たちのところまで上がってくるんだろう?それなら、悪いことは言わない、今回は手を引け」

 私のランクはB、上から三つ目である。また、目の前にいるブレイドはランクA……つまりは、先ほど述べた通常の最高位に位置している。

「……うん」

「フェイスも、理由は言ってはくれないが。あの人はお前を気に入っている。なら、今回お前を引かすのだってお前のためだと思わないか?」

「……わかってる」

 わかってる――

 ここで引くべきだと言う事――

 だけど……それを認められるほど……

 

 

 

 ぽとりと音を立てて私の瞳から涙が零れ落ちた。

「ふ…ふぇえ……」

 口から嗚咽の声が漏れ、頬を伝う涙はとどまることなく零れ出る。

「瑞希――」

 宗介が私の肩を抱く。

「そう……ちゃん」

 私は全身に力が入らなくなり、宗介に体を完全に預けるような形になった。そこで、私の肩を抱く宗介の手に力がはいる。肩から宗介の暖かさが私の体に伝わってくる。私は、すぐ近くにブレイドがいるのも気にせず宗介の胸に抱きつき泣き出してしまった――



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