第1話 はじまりの歌――
5.Let’s begin
「んー…」
「ん?どうした」
「ぁ、気にしないで。大丈夫だから」
用意した食事を二人で食べながら、私は胸に妙な違和感を感じてポツリともらした。
(なんだろ……変な気分)
「大丈夫だから、とりあえず食べてしまお」
「ん?あぁ――」
「うん。食べたら学校行くんでしょ?」
話し合ってるだけでは何も進展がないので、私たちは食後、学校へ向かうことにしていた。
(大丈夫――だよね?)
食後をすました私たちは、片付けた後に学校へ向かった。
「おい、お前たち。ここは立ち入り禁止だぞ」
「ん?」
「私たち?」
私たちが学校の校門まで行った時、校門の前で警察のおじさんに止められた。
「許可のない者をいれる訳にはいかない。だから、お嬢ちゃん達も入れません」
「お嬢ちゃん!失礼ね、私は男の子よ!」
「男だって。……信じられないな。だが、男でも女でも入れません」
「あー…まてまて」
いまにも喧嘩になりそうな状況を、宗介がとめた。
「瑞希、遊んでる時間はない」
「むー…わかってるよ。はいおじさん、これで許可とれない?」
そう言って私はポケットから一枚のカードとペンダントを取り出し、おじさんに見せた。カードには私の顔写真と名前、そしてWDUという文字が書かれている。ペンダントは、Bという文字の形をしていた。
「こ――これは」
「どうなの?」
「す、すみませんでした。今すぐ上に話してまいりますので、いましばらくおまちくださいませ」
私がそれを出した瞬間おじさんの顔が真っ青になり、大慌てで中に入っていった。
「――瑞希、お前実はひどいよな」
「なんのこと?」
「いや……いい」
何はともあれ、私たちは中に入れてもらえた。
「しかし……時間がたって証拠とかヒントになりそうな物なんて残ってないんじゃないのか?」
「んー…大丈夫だとは思うけど、わからないなぁ」
そうこうしているまに私たちは、被害者が倒れていた職員室の前に着いた。その床には白いマーカーで印死体のあった位置に印がされていた。だがそこには――
「あれ?」
「ん?どうした?」
「いやさ、この床……おかしくない?」
私が指差した先の床には、白くマーキングされた人型のマークがあり、その胸のあった位置に血のついた跡があった。
「いやさ、なんでここ……傷がないの?」
「え?」
「考えてみてよ――凶器は小型ナイフなんだよ?そんなので胸刺されたからって即死する?たしかにすぐに死ぬだろうけど、刺されてから多少なりとももがくでしょ?それだと、地面に靴の跡がつくと思うし、血だって一か所にたまらずに飛び散ると思うんだけど……即死になるほど刺したのなら血は高く舞うはずだし――」
先ほども述べたとおり、血は胸の傷跡のあった位置についているだけだ。
「それにさ、いくら人通りの少ない職員室の前で、なおかつ昼休み終了前とはいえ、教師の一人すら気付かないなんておかしいでしょ」
「たしかにな――だが、そうなると別の場所で殺されてここに運んだことになるか?」
「そう考えるのが妥当じゃない?」
だけど、私は自分のセリフで自分の考えが間違っていると言っている……
そう――
「ただ、運んだとなるとそれこそ誰か気付くだろうし、なにより背負ったなら服に、引きずったなら地面に、なんらかの跡がつく――」
「まぁ、まずだれか気付くだろうな。じゃないと人を殺したって気付かないさ」
「なんらかのトリックで……ここに運んだとしか思えない。けど、それには必要な条件がそろってなさすぎる――」
私はただ、呆然とその地面を見つめることしかできなかった。
結局その日は、一日中捜査したものの、大した情報をつかむことができないまま夕方を向かえた。
「はぁ……意外に難儀だわ」
「そうだな――」
「頭の中がごちゃごちゃだよぉ」
夕方の5時をすぎたので、私たちは校舎を出た。
校庭にでると、心地よい風が肌と髪にあたった。
「なんとなく――パズルが組合わさっているようで、組合わさっていない。そんな気分だよ」
「だな――」
(なんだろう――この感じ……がんじがらめに結ばれて身動きが取れない――そんな気分だ)
(考えるたびに、答えが出る……だが、すべてが返される。まるで、そうむりやり考えさせられているような――)
頭の中をいろいろな考えが回る……
「っとあぶないな」
「ひぁあ」
そのとき、一瞬吐き気をもよおした私は、立ち暗みを起こして倒れかけた。それを宗介がぎりぎりのところで抱き抱えて受け止める。
「あぶないよ」
「ご……ごめん」
宗介に抱き抱えられている私は、その顔を耳の裏まで真っ赤にした。ドキドキと胸がなっている。
(ふ……ふぇえ、そうちゃんの顔がすぐそばに)
朝の事件がまじまじと脳裏によみがえる。
と、その時――
「相変わらずラブラブだな」
突然、聞き覚えのある男の声が聞こえてきた――
「久しぶりに……なるのか?豆、宗介」
声と共に姿をあらわしたその男の姿に、私たち二人は見覚えがあった。
「ブレイド!?」
私と宗介は、声を揃えてその名をさけんだ。