1話 はじまりの歌――

4.irst kiss

 

 気がつくと、外はすでに明るくなり始めていた。それまでの黒い空とは違い、薄く紫がかった空に人々は、一日の始まりの訪れを感じる。

 ここ、鼎 瑞希の家においても、それはかわらない。

「ぅわー…もう明るくなってるよぉ…」

 そういって私は、窓を覆っている薄い色のカーテンをめくった。

「そうちゃん、朝ご飯食べてくよね?」

「あぁ」

「ん。じゃぁ用意してくるから適当にしてて」

 そういって私は、早々に部屋を出た。

 

 私の家は、一階建ての小さな家だが、それでもいくつかの部屋がある。先ほどまで宗介といた部屋のほかに、客間に使う小さな部屋、いつの間にか物置とかしてしまった部屋、そしてダイニングキッチンとがある。

   私は、部屋を出てからまっすぐに客間へと向かった。理由は、昨日の会話中に汗をかいて服が冷たくなってるので、着替えるためだ。

「ふぅ……ぐっしょりだなぁ」

   脱いだシャツを見ながら私は溜め息をこぼした。

「まったく……」

 その服を見つめる。バタバタしていたため、昨日は帰ったままの格好だった。そのため、着ているのは学校の保健室の服。

 そこまで思い出して、私は顔が熱くなるのを感じた。

「うわぁ……思い出したくないのにっ……」

 私の脳裏に、保健室での会話がよみがえってくる。

 私が急に倒れこんだとはいえ、宗介に着替えさせられたというのは、やはり恥ずかしかった。服の中を見られたと思うと、耳の裏まで真っ赤になってしまった。

「あー…なんなんだよもぉ」

   私は、自分の頭をちからまかせにひっかいた。

「心まで……女の子になっちゃう――」

   出会ったばかりの頃はこんなじゃなかった…

 もともと二人の出会いは、誕生日が同じ二人というだけのものだったのだ……

 それが、いつしかいつも一緒にいるようになっていて、そばにいるのが当たり前のようにさえなっていた。

「なんなんだよもう……」

 私は脱いだシャツを強引に洗濯物かごに押し込んでその部屋を後にした。

 

 

 

   小さな音を立てて、鍋の中のお湯が沸騰した。あとはこれに味噌をいれて混ぜたら完成だ。ちょうどいいタイミングで炊飯器から音がなり、お米が炊けたことを私に知らせた。

「よしっ、できたぁ」

  食事の準備ができたので、私は宗介を呼びに部屋に向かった。

「そうちゃん、できたよ」

 そういって部屋に入ると、宗介は小さな寝息を立てていた。

「むー…私一人に用意させておいて寝てるし……」

  私は、少し腹を立てながら宗介のほうに近寄った。すると――

「瑞希」

「はい?」

   急に名前を呼ばれ、私はつられて返事をした。

「……って寝言ですか」

   名前を呼んだ後も、依然と寝息を立てている宗介に私は半ば呆れ気味につぶやいた。

「まったく……なんの夢見てるんだよ」

   ぶつくさと文句を言いながらも、私は宗介の肩をゆすった。そのとき――

「ぅわっ!」

   近付いた私の唇に、寝返りをついた宗介の唇がかさなった。

   たった一瞬触れただけだったが、私は大慌てで宗介の肩をおした。

  その瞬間、支えを失った宗介の体は、床に叩きつけられる形になった。突然の衝撃をうけ、宗介があわてて目を覚ます。

「なんだなんだ!」

 倒れ拍子に頭を打ったらしく、宗介は頭を押さえながら目を覚まし、体を起こした。

「みずきぃ、寝てたとは言えもう少し優しくおこせないのか!」

「う、うるさい。あんなことしておいて!」

「あんなことってなんだよ!」

「って記憶がないの!?」

「だからなんのだよ!」

  寝返りで私の唇を奪っておいて、当の本人には記憶がないらしい。途端に私は恥ずかしくなり、「もう、うるさい」とだけ言ってからキッチンへ向かった。宗介のほうは、「なんなんだよ」とぶつくさと言いながら私についてくる。

  その様子を片目で見ながら私は、「初めてのキスが……」などと考えながら耳の裏まで真っ赤になってしまっていた――

 

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