A Sleeping Damon ~Ro Novel 特別編~

3

 ドドドという、地響きのような音を立てながらパサナとマルドゥークの群れが現れた。

「……ファラオ」

 その群れを見ながら、クラークが小さく呟いた。

「なるほどな――それならば先ほどのことも頷ける」

 襲いかかってくる魔物に対し、流れるような動きで移動して目的の物を探す。

「みつけた――」

 発見した場所へ、ホーリーライトの呪文を放つ。そこには、このダンジョンを統治するボス、ファラオの姿があった。

「ギィ」

 ホーリーライトがファラオに直撃し、飛散したところでファラオは姿を消した。

「……逃げたか」

 姿を消した魔物達に、クラークは舌打ちをする。

(アレを倒せというのが任務か……?)

 ファラオの引き際のよさに多少の畏怖感を感じながらも、クラークは横にいるヴァッツに振り返った。

「えぇい!いつまで寝ているか!」

 なおも眠り続けているヴァッツに、ついにクラークは声を荒げてしまった。

 

 

 

「アレを探すぞ……」

「?」

 眠っていたヴァッツを起こし、簡単に説明をする。寝ぼけたような口調で返すヴァッツに、「だめだこりゃ」などと思いつつも続け、ファラオの捜索を開始した。

 とはいえ、広いダンジョン内にいる一匹の魔物を探すのは骨が折れる。

 と……思っていたのだが、意外にもソレは早く見つかった。

「見つけた……」

 こちら側から見つけたが、まだあちらには気づかれていない事を確認し、準備に入る。

 だが、先ほどのように遠距離攻撃を行うとファラオはすぐに逃げてしまうので攻撃するには相手の懐に入り込むしかない。

(一気にあそこまで駆けて行って一撃を食らわすか……)

「ヴァッツ……つっこむぞ」

 その言葉と共に、クラークが宙を舞う。それにあわして、ヴァッツがクラークの一歩手前まで走り周りにいる取り巻きたちを蹴散らす。

「……クッ」

 その瞬間に、クラークの目の前にファラオが立った。今にも体が接触しそうな状態からファラオの右腕が動きクラークの胸を突く。突然の攻撃に唖然となってしまったクラークは、その場によろめき倒れこんでしまった。

「グゥ……」

 クラークの口から赤い血が漏れる。

「クラーク!」

「くるな!」

 クラークに向かって走ろうとするヴァッツを抑制し、何とかその場に立ち上がる。

「くそ……」

 クラークの顔に焦りの色が浮かぶ。

(なんだ……こんなときに)

 先ほどの倒れこんだのとほぼ同時に、自分の腕に違和感を感じた。それは、この任務に当たりヨルブリンガルを出た時に感じた違和感と同じだった――

「カハッ」

 ファラオが動き、クラークの体に衝撃が走る。

 なんとか耐えようとするも、体がいうことをきかずクラークは後方へと弾き飛ばされてしまった。

「……っ!」

 なんとか止まろうと、足に力を込める。それによってようやく体は止まったものの、それでも元いた場所よりも数メートルほど後に飛ばされていた。

「な……」

 その瞬間、クラークの感じていた違和感は確かな物となった。

(こんなときに――)

 クラークの右腕は、完全に動かなくなってしまっていた。

「クラーク?」

「腕が……うごかねぇ――」

 普段と明らかに様子の違うクラークにヴァッツが声をかける。そして、その返答にヴァッツは驚愕の表情になった。

「な……」

 ヴァッツの額に汗がたまる。それに対し、クラークの方も何とか元いた場所まで戻ろうとするが、足も上手く動かなくなってしまっていた。

「う……」

 派手な音を立て、クラークはその場に倒れこんでしまった。

「クラ……」

「くるな!」

 自分の情けなさに、クラークは声を荒げる。その悲痛な叫びに、ヴァッツはどうすることもできずにただ呆然と立ち尽くすしか出来なかった。

(ちくしょう……)

 クラークの顔から、いつしか怒りの表情は消えていた。

 握り締めた腕がカタカタと音を立てて震える。噛み締められた唇が切れ、赤い血が小さな一本の線を描いていた。

(なんで……俺はいつもいつも――)

 自分の情けなさに反吐が出る、そんな気分だった。無力さがつらかった――

「クッ」

 逆に支援呪文の届かないヴァッツは、ファラオの取り巻きとなるモンスターを倒しながらも、その体には小さきながらも傷がついていった。

 なんとか動いてはいたが、それもいつしか苦しくなり、ヴァッツは顔面に衝撃を受けその場に倒れこんだ。

 上半身を起こそうとするが、頭がクラクラして上手く立てれない。口の中に血の味を感じ、乾いた地面に吐き出すと、それは赤く染まっていた。

「なっ」

 その直後に、手を上に掲げたファラオの周囲に魔物が現れ、容赦なくヴァッツに襲い掛かってきた。

「くぅ……」

 目の前に現れたパサナの剣が閃光を描いてヴァッツに襲い掛かる。かろうじて避けようとするも、避け損ねた白刃の衝撃が肩へとかかり、赤い鮮血が頬に散った。

「っ……!」

 痛みが感覚を麻痺させる。

「くそ……どうしろと」

 クラークが皮肉交じりの声で呟く。その声に、ヴァッツが嫌そうな表情で見つめてきた。

 そのとき――

(動く――!)

 クラークの足がわずかに動いた。その足元に力を込める。ギシギシと音を立て、痛みを感じる足をなんとかして動かす。痛みを我慢し、その場に立ち上がったクラークを見てヴァッツは口元に苦笑いを浮かべた。

「ふん……」

 動かない右腕をだらりとおとし、左腕を掲げ呪文の詠唱を放つ。同時に、ヴァッツを暖かい光が包み体の傷が癒えた。

「いけ……ヴァッツ」

「おう!」

 小さく笑ったヴァッツに、クラークは笑みを浮かべる。

「きえろ!」

 その叫び声が終わるか終わらないかの時に、ヴァッツの剣がファラオを縦一文字に切断した。鮮やかに二つに切断された体から、鮮血が舞い上がりファラオはその場に消滅した。

「これは……」

 消滅したファラオの体あったあたりに、一本の剣が落とされていた。

「太陽剣……」

 ソレを見つめながら、クラークは小さく呟いた。

 

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