A Sleeping Damon ~Ro Novel 特別編~

2

 視界一面に砂漠が広がる砂の都モロク。そこにやってきたクラーク達は、すぐにその町を離れスフィンクスダンジョンへと向かった。

 ここモロク周辺には、二つのダンジョンがあり、それぞれ数多くの冒険者が腕を磨くためにそのダンジョンへと入っていく。

「最下層まで一気に降りるぞ」

「ねむてー」

「……」

 スフィンクスダンジョンに入った二人は、すぐに最下層に向かって歩き出した。

「しかし……今回の任務には疑問が多いな」

「ん?」

 歩き出したクラークが、突然口を開く。

「今回の任務は、何をしろとの命令もなく、ただスフィンクスダンジョンの最下層へ向かえという任務のみだった」

 普段ならば、なんらかの任務を与えられるはずが、それがないために行って何をすればいいのかが分からないでいた。

 とはいったものの、向かえという命令ならばそれを遂行するまでである。

「なんか……あるんじゃね?」

 深刻な表情で考え込むクラークに、間の抜けたような表情で呟く。それに対し、頭の中で「軽い奴だ」と苦笑してから、クラークは再び歩き出した。

 進むにつれ、入り組んだマップがひろがり、強力な魔物が姿を現す。

 巨大な牛の魔獣ミノタウロス、スフィンクスの財宝を求めて侵入し屍となった盗賊の怨念パサナ、宝箱の格好をして近づいた冒険者を惑わすミミックといった、強力な魔物が二人の前に立ちはだかった。

「ちぃ……数が多すぎる……」

 自分たちを取り囲む魔物の数に、クラークが皮肉じみた笑みを浮かべる。

「クラーク!」

 突然、ヴァッツが叫び声を上げる。その瞬間、ヴァッツの横を通り過ぎた三匹のミノタウロスがクラークの背後に回った。

 突然の出来事に、盾を構えることも出来ずクラークは後方へと吹き飛ばされてしまった。

「……ぐっ!」

 体を襲った衝撃で、クラークは軽い目眩を感じうずくまる。その間にも周囲の魔物は数を増し続け、クラーク達を取り囲む。

「ちょ……」

 ヴァッツとクラークの間に数匹の魔物が立ち、ヴァッツはクラークの方へと行くことが出来なくなってしまった。

 完全に引き離された形となった二人に、容赦なく魔物が襲い掛かる。ミノタウロスの握り締めた斧が光を放ち、ヴァッツに振り下ろされる。なんとかそれを回避した物の、続けざまに切り込んできたパサナの剣にその体を裂かれる。

「くそ……」

 ヴァッツの表情に普段見せない焦りの色が浮かぶ。

 剣を握り締め、敵に襲い掛かる。

(なんとか……クラークの方へ)

 一方クラークの方は、チェインで周囲のミノタウロスを攻撃をしつつ、一歩ずつ後退している。

「ヴァッツ!階層を下るぞ!」

 ヴァッツに向かい声をかける。クラークの後方には、最下層へと続く階段がある。階層を下るとそこまで魔物は追っていくことが出来ないため、魔物を撒くためには有効な手段といえる。

「つっても……」

 だが、多くの魔物によって足止めされている今の状態では、階層を下ることはおろかクラークとの合流も難しくなってしまっていた。

「……ちぃ」

 クラークの表情にも、焦りの色が浮かぶ。

 チェインをしまい、代わりに杖を取り出す。それを握り締めてから、ミノタウロスの斧を紙一重の所でかわしてヴァッツの元へと駆ける。

 ヴァッツの方もまた、パサナの剣を絡めとりなんとか自由に動ける空間を作ろうとするが――

「次から次へと……」

 次々と現れる魔物に、完全に身動きが取れなくなってしまった。

(どうすればいい――)

 頭の中で考えをめぐらせる。だが、この事態を突破できる策が見当たらない。

 

 なんとかヒールが届く範囲まで近寄ることができたクラークは、ヴァッツに向かってヒールの呪文をかける。

「サンキュ!」

 傷の癒えたヴァッツが、目の前にいるミノタウロスの斧を叩き落しなんとか活路を見出す。

「ふぅ……」

 どうにか二人は合流に成功し、お互い背中を預けあう形で立った。

「……ヴァッツ」

「ん?」

「死ぬなよ」

「あぁ――」

 苦笑交じりの笑みを浮かべ、クラークは一歩前に出た。

「いくぞ!」

「あぁ、そろそろ眠くなってきたしな」

「……それはいつもだろうが――」

 いつも通りの軽口で話すヴァッツに、吹き出しそうになりながらもなんとか耐え、速度増加の呪文をかける。

「一気に突っ走れ……」

「了解」

 一点集中で走り出した二人は、階段に一番近い魔物の塊に突撃をした。

「ボーリングバッシュ!」

 逆手に握った剣を振り、周囲にいる魔物に斬りかかる。そうすることで、一点に空きが出来た。

 そこへ二人で一気になだれ込む。魔物達は、身動きすらとれずにクラーク達を見送るようになってしまった。

 

 

 

「ふぅ……」

 なんとか最下層にたどり着いた二人は、その場に座り込んだ。

 クラークは、自分とヴァッツの二人にヒールの呪文をかけ、傷を癒した。

「すこし……やすもうぜ」

「あぁ……そうだな」

 ヴァッツの言葉に返事をし、少し体を休める。

 最下層に逃げてきたとはいえ、この階層にも強力な魔物は出現するため、気は抜けない。

 とはいえ、先ほどまでの戦闘でほぼ全ての力を使い切ってしまった二人は、休息を取らないことには呪文すらも満足に使えない状態になってしまっていた。

「しかし……」

「ん?」

 休息をとり、体が少し軽くなってきたところでクラークが口を開いた。

「任務どうり、ここまできたが……ここに何があるというんだ?」

「んー…」

 当初、今回与えられた任務はスフィンクスダンジョンの最下層へと向かえという任務だった。

 だが、そこに行って何をしろという任務は与えられていないのだ。

「ここにくれば、すぐになにかが起こるのかもしれないと思ってはいたが……」

 最初は、ここへ向かうと何かがあるのだろうという安易な考えしかもっていなかった。

 だが、来てみるとそこには何もなく、ただただ沈黙のみがあった。

(それとも……これから起こるとでもいうのか――)

 闇の中を手探りで探すような、そんな気分で周囲を見やる。

 とはいえ、探すには情報が少なすぎていた。

(まぁ……油断しないでいるのがいい……か)

「とりあえず、そろそろ動くか」

「んー…」

 ヴァッツの返事を待たずに、クラークはその場に立ち上がる。そのすぐにヴァッツの立ち上がる音が聞こえて……はこなかった。

「……まったくこの男は」

 横目でヴァッツを見やると、予想どうりそこには眠っているヴァッツの姿があった。

「おいおき……」

 ヴァッツを起こそうと、肩に手を当てたところで強烈な殺気を感じクラークは顔をしかめた。

(きた……ってことか――)

 

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